診療案内 TREATMENT

呼吸器内科で診療する疾患

呼吸器科で扱う疾患は、非常に多岐にわたっています。近年猛威を奮った新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)をはじめとする呼吸器感染症は、早期の診断と適切な治療が重要です。
また、肺癌はもちろんのこと、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫)、間質性肺炎などは、とりわけ頻度の高い疾患ですが、専門医でないと診断や治療が難しいことがあります。また、少なくなりましたが依然として新規患者が発生している肺結核症や、近年増加傾向にある非結核性抗酸菌症の感染症も診療しております。その他にも、アミロイドーシス、原発性肺高血圧症、肺胞蛋白症、リンパ脈管筋腫症などといった特殊な疾患もあります。悪性疾患(肺癌、悪性胸膜中皮腫)、びまん性肺疾患(間質性肺炎など)、感染症、アレルギー疾患など呼吸器内科は幅広い病態の診療をしています。

呼吸器疾患に伴う症状は、呼吸困難や咳嗽、喀痰などが代表ですが、これらの症状のみからでは区別のつけにくい疾患も多いため、病気の診断には、より専門的な知識と技術をもった呼吸器専門医の役割が大変重要となってきます。さらには、肺癌のターミナルケア、慢性呼吸不全の在宅酸素療法など、呼吸器専門医の守備範囲は、年々広がってきています。

私たちの呼吸器内科は、専門医の少なかった福島の地に開設されて以来、専門医の数を増やし、県内各地域の診療をお手伝いしながら福島の呼吸器疾患診療を世界レベルにまで近づけるべく努力を重ねてきました。私たちも臆することなく志しを共にして、福島がこれまで以上に世界に誇れる医療発信の地となることを展望し、県民の皆様と共に歩んで行きたいと考えています。

呼吸器内科での診断・治療技術

クライオバイオプシー

肺癌や間質性肺炎では、異常がある肺の一部(細胞・組織)を採取(生検)し病理学的検査や遺伝子変異検査(分子診断)を行うことが、診断や治療方針の決定に重要です。 

肺の生検方法として、全身麻酔下の手術で肺の一部を切除し検体を採取する外科的肺生検、皮膚表面よりCTで位置を確認しながら針を刺して肺組織を採取するCTガイド下生検などがあります。これらの方法は比較的大きな細胞の塊(検体)が採取できるものの、患者さんの負担が大きいのが欠点です。

呼吸器内科では肺の生検法として、気管支鏡による検査を行ってきました。これは、患者さんの口から声帯を通して気管の中に気管支鏡を挿入し、気道を通じて肺組織の生検を行う方法(経気道的生検)です。しかし、従来の気管支鏡による検査方法では、皮膚の切開や全身麻酔などがない代わりに、大きな検体を取ることが難しいという問題点がありました。

福島県立医科大学呼吸器内科では、気管支鏡による生検方法の一つとして、クライオバイオプシーを導入しました。これは、気管支鏡の内部に、細長いワイヤー型の医療機器(プローベ)を通し、病変のある部位まで誘導・挿入し、先端を冷却することでプローブ周囲の肺を凍結し引き抜くことで、検体を採取してくるという方法です。これまでの気管支鏡による生検と比べて、大きな検体が採取可能となり、診断率の向上につながります。安全性には十分に配慮して検査を行っております。

肺癌診療について

呼吸器内科では、転移がある進行期肺癌や化学放射線療法の対象となる局所進行肺癌の患者さんの診断と治療を行っています。

肺癌の診断には、異常がある場所から細胞を採取し癌細胞があるかを調べる検査(生検)が必要です。その癌細胞を採取するために気管支鏡検査を行いますが、当院は肺癌やその他の呼吸器疾患の診断のために年間約300件程度の気管支鏡検査を行っている県内では有数の施設です。

肺癌の治療において、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などの治療が選択肢として出てきています。そこで気管支鏡から採取した細胞で肺癌かどうかだけでなく、遺伝子の情報を調べる「がん遺伝子パネル検査」を用いて、患者さんごとに最も有効な治療薬を選択する一助としています。また免疫チェックポイント阻害薬では、免疫関連有害事象という全身の様々な臓器に多様な副作用が起きることがございますので、以上を考慮した上で患者さんごとに最適な治療をご提案しています。

不安を抱えた患者さんもいらっしゃると思いますので、安心して治療を受けることができるよう丁寧に説明を行い、ご理解いただいたうえで治療を受けていただくことを心がけています。

間質性肺炎の検査や治療法

間質性肺炎とは、肺の奥にある肺胞と呼ばれる小さな部屋の薄い壁の中(間質)にさまざまな原因から炎症がおこることで、壁が厚く硬くなり(線維化)、酸素を取り込むことがうまくできなくなる病気の総称です。CTやレントゲンの画像では間質の炎症はもやもやした影で見ることができますが、線維化が進むと蜂巣肺といわれるような穴も確認することができます。症状としては、安静時には感じない呼吸困難感が、坂道や階段の歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作の中で感じるようになり(労作性呼吸困難)、痰を伴わない空咳で悩まされることがあります。長年かけて徐々に病状の進行がみられる病期ですが、風邪のような症状の後に急激に呼吸困難が出現する「急性増悪」によって病状が大きく変わることがあります。

間質性肺炎の原因には、関節リウマチや皮膚筋炎などの膠原病(膠原病性間質性肺炎)、職業や生活による粉塵やカビ・ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入(じん肺や慢性過敏性肺炎)、病院や薬局で処方される薬剤・漢方薬・サプリメントなどの健康食品(薬剤性肺炎)、特殊な感染症、その他にも原因不明のまれな間質性肺炎など様々あることが知られています。

これらの原因を明らかにするには、問診を含めた診察、歩行試験、CTなどの画像検査や、上記の様な気管支鏡検査も重要になってきます。また、呼吸機能検査や血液で線維化マーカー(KL-6やSP-Dなど)を繰り返し検査することで病勢を把握することが可能になります。

治療が必要なタイミングで、それぞれの原因となる診断に合わせた方法を行うことが重要です。それ以外にも原因には因らず、呼吸機能検査や画像や症状での一定の悪化がみられた際には、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブの内服薬)の治療効果が期待できる可能性があります。治療としては病気の進行を遅らせることが目標であり、抗線維化薬にも少なからず副作用があります。

検査方法や治療方法も変化します。検査や診察を継続し、ひとりひとりにあった治療法を見つけていきましょう。当科でも、間質性肺炎に関した治験を厚生労働省や企業とも連携して行っています。その時々に募集している疾患や状態が異なるため、主治医に相談してみて下さい。

気管支喘息などの慢性咳嗽の検査や治療法

長引く咳や息切れを訴えて呼吸器科外来を受診される方は非常に多いです。そのような症状が出る疾患に咳喘息や気管支喘息があります。喘息の病態は気道の慢性炎症が特徴です。気道炎症の状態や程度を評価する方法には様々な検査があり、当科では主に下記のような検査を行って診療しています。

【呼気一酸化窒素濃度(Fractional exhaled nitric oxide:FeNO)測定】

気管支喘息患者さんの多くは好酸球性気道炎症があり、FeNOを測定することで、好酸球性気道炎症の存在や程度を評価することができます。専用のマウスピースを加えて、一定の強さと速さで10秒ほど息を呼出することで測定します。負担が少なく、結果はその場ですぐに判定できます。気管支喘息の迅速補助診断に加えて、治療効果や管理の指標としても用いています。保険収載されている検査となります。

【気道過敏性検査(アストグラフ)】

気道過敏性とは、気道収縮物質に対して気道が狭窄反応を示す程度のことであり、気管支喘息患者さんでは気道過敏性の亢進が認められることが特徴です。気道収縮薬(メサコリン)を低濃度から1分間ずつ吸入し、段々と薬剤濃度を上げていき、気道抵抗値を測定します。測定時間は10分~15分程度です。気管支喘息の診断指標として重要ですが、負荷試験であることから施行時には過度の気道狭窄や低酸素血症に注意が必要です。また、アストグラフ検査の終盤には気管支喘息の治療に用いる気管拡張薬(ベネトリン)を用いて検査前の呼吸機能に回復したことを確認したうで検査を終了します。

【気道抵抗測定(Forced oscillation technique:FOT)】

主に気管支喘息患者さんでの末梢気道(気道の奥の方)の気道抵抗値を測定します。計測時間は5分程度です。気管支喘息では末梢気道の抵抗が上昇することがあり、気管支喘息の評価のひとつとしての検査となります。

【咳感受性試験】

咳が出る原因のひとつに咳感受性が亢進していることがあります。カプサイシン(唐辛子に含まれる成分)を低濃度から少しずつ吸入して、どの濃度で1分間に2回または5回以上、咳が誘発されるのかを評価する検査です。カプサイシン濃度が低い段階で咳が誘発される場合には、咳感受性が亢進している可能性があり、咳の治療薬を考える際に有用となることがあります。

【咳モニター】

咳が1日の中でどのくらい、そしてどの時間に多く出ているのかを評価するための検査です。記録はボイスレコーダーを用いて行います。ご自宅に専用レコーダーを持ち帰っていただき、24時間の記録を行ったのち、後日返却していただきます。咳の解析は専用プログラムを用いて咳だけを自動的に検出し、咳の回数と咳の出ている時間帯を調べます。専用プログラムによる解析なので、プライバシーも保護されています。咳の程度や多い時間帯をみることができるため、慢性咳嗽疾患の診断の一助になります。また、解析結果をカルテ画面にお示しすることも可能なので、患者様自身が客観的に咳の状態を把握できます。更に、治療前と治療後に咳の回数を評価することで,どのくらい改善したのかを把握することも可能です。

気管支喘息の治療

気管支喘息治療の第一選択薬は、気道炎症を抑える吸入ステロイド薬です。その他、気管支拡張薬など様々な治療薬がありますが、複数の治療薬を使用しても十分なコントロールが得られず、日常生活に支障が出てしまう難治性喘息の方がいらっしゃいます。このような方に以下のような喘息治療法があります。

【生物学的製剤】

喘息で気道の炎症を起こすメカニズムは複雑ですが、そのメカニズムに関与している物質(サイトカインなど)を阻害する注射製剤です。2021年7月時点で、4種類の生物学的製剤があります。発売順の記載となりますが、抗IgE抗体(オマリズマブ:ゾレア®)、抗IL-5抗体(メポリズマブ:ヌーカラ®)、抗IL-5受容体α抗体(ベンラリズマブ:ファセンラ®),抗IL-4/IL-13受容体抗体(デュピルマブ:デュピクエント®)があります。種類によって、注射の投与間隔は2週間毎から2カ月毎と様々です。どの製剤が治療効果に期待できるかについては、患者さん毎に異なり、血液検査や呼気分析、喀痰検査などの結果から判断していきます。これらの製剤による治療でコントロールが得られれば、それまでの内服薬などが減らせることもあります。

【気管支サーモプラスティー】

高周波電流により気管支壁を加熱することで、肥厚した気道平滑筋を減少させ、喘息発作の頻度を減らし、喘息症状や生活の質(QOL)を改善させます。難治性喘息の方では、気道平滑筋が肥厚して喘息の悪化に関与していることがあります。高周波電流を用いて65℃の温度で気管支壁を温めることで気道平滑筋を減少させます。具体的には、入院の上、全身麻酔下に気管支鏡を用いて特殊なカテーテルを気道に入れて、65℃で10秒間ずつ通電し、気道平滑筋を減少させます。この手技を3-4週間の間隔をあけ、3回に分けて行います。18歳以上の喘息患者さんが対象となります。

【治験】

既存の様々な治療を行っても改善の得られない、慢性的に咳が持続する方や難治性喘息の方でには、今後の日常診療で利用される前の新しい薬剤による治験も積極的に行い、最先端の医療を提供しておりますのでご相談ください。

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